「沈黙する大御所アーティストは過大評価されている!」
トーマス・ヒルシュホーンとスティーブ・ライヒ&ベリル・コロー比較 (10/26/2004) ![]()
渡辺真也

ビキニ環礁で爆発した水爆ブラボーとその副次生産品「ビキニ」
先日、ニューヨーク州Peekskillに新しく作られたHudson Valley Center for Contemporary Artにてオープニングがあり、マンハッタンから足を伸ばしてきた。ハ ドソン・バレー沿いの町は非常に風光明媚で、マンハッタンからの小旅行にはもってこいの場所であ る。
新しい美術館のオープニングという事もあってかかなり気合の入った展示をしており、寄せ集めという感は否めなかったが、マシュー・バーニー、レベッカ・ホルン、ジェフ・クーンズ、アンゼルム・キーファー、宮島達男などの大御所アーティストが倉庫の様な巨大なスペースに所狭しと並べられていた。
ペインティングのニゲル・クックやビデオアーティストのマリア・マーシャルなどの良作も目立ったが、なんと言っても圧巻は、トーマス・ヒルシュホーンが2001年に発表した「Laundrette(コインランドリー)」だ。ヒルシュホーンはこの作品を常設展として1ヶ月かけて再製作したそうだが、気合の入り方が凄かった。
2002年にバーバラ・グラッドストーンギャラリーで行われたCavemanmanやドクメンタ10でのバタイユ・モニュメントも凄かったが、これも凄い。美術館の一部屋まるごとコインランドリー風のスペースへと変貌させてしまったのだ。そして部屋の壁の上部には以下の様な資本主義発展のプロセスが書かれている。
1. Patriarchal, i.e. to a considerable extent natural peasant farming.
2. Small commodity production of those peasants who sell
3. Private Capitalism
4. State Capitalism
そして壁全体には乱交パーティの写真やスティグマ現象について、ラップミュージックのポスターからサッカーワールドカップについての雑誌記事、さらにはカトリーヌ・マラブーによるヘーゲルとフロイト批判の記事まで様々なものが所狭しと張られていた。また洗濯物を覗く窓の部分にはモニターが設置されており、アフリカでの処刑シーン、戦争での死体運搬からコカコーラを便器に流すパフォーマンスまで見せている。映像も生首が出てくるわ、検死解剖で脳みそ出てくるわで、それは凄かった。ヒルシュホーン大爆発であ る。
キュレーターとして個人的に写真を撮らせてほしい、と美術館側と交渉したのだが、大変セキュリティが厳しく、許可を取るまで、ミュージアムのディレクターやキュレーターのみならず、ボードメンバーの許可さえ必要で、ひどく手間取った。しかし、写真に収めたいと思わせるだけの価値があ る作品であった。
また、この展示の入り口に「8歳未満のお子様はご入場を薦めません」と書いてあるのが興味深かった。日本が「木村さん」の検閲で話題になっている時に、「8歳未満」という低い年齢制限(制限ではなく、あ くまで提案の様な言い方であった)でこの作品を見せるのは凄い。何だかんだ言ってもアメリカはまだリベラルなのだなぁ、と関心してしまった。キュレーターのシュトラウス氏と話した際、「本当はこんなサインは出したくなかったんだけれどね」と言ったのが印象的であ った。しかし、この作品を見た9歳の子供がトラウマにならなければいいのだが。。。また、小さな子供に「お母さん、乱交ってなあ に?」と聞かれたら、母親はなんと答えるのであろうか。
ヒルシュホーンは1997年末、ケルン国際賞の造形美術部門に選ばれたが、メセナが選考委員会と対立して受賞者の選択に異議を唱えたため、結局賞は授与されずに終わっ てしまった。「希望や指標を与えることではなく、尊大なスピーチを嫌悪し権力に取り憑かれた人々を軽蔑することが必要だった」とヒルシュホーンは語っているが、とても真っ当な事の様に思える。
話は変わって、最近マンハッタンのApex Artで行われていた核爆弾をテーマにした美術展「Building the Unthinkable」を見て来た。展示が面白かったので、後日行われたべリル・コローとグレゴリー・グリーンによるアーティストトークにも参加してきた。ちなみにベリル・コローは旦那であ るスティーブ・ライヒとの共同作品であるデジタルオペラ「Three Tales」にてこの展示に参加していたのだが、この作品はは20世紀の記念的出来事であ る「ヒンデンブルグ号の爆発」「ビキニ環礁核実験」「人口知能」の三話から構成されている。
「Three Tales」の前にライヒとコローが作ったデジタルオペラは「Cave」であり、その内容は、イスラエル人とパレスチナ人の双方に「あなたにとってアブラハムとは誰?」という質問を延々と行うという内容のものであった。そこで私は質疑応答の際にベリル・コローにこんな質問をしてみた。「あなたは作品『Cave』の中で、イスラエル人とパレスチナ人の双方に『あなたにとってアブラハムとは誰?』という質問をするという行為を行っています。そして新作『Three Tales』では、世界の脅威としてビニキ環礁でのアメリカの核実験をテーマにした作品をつくりました。そこで質問なのですが、イスラエル政府が極秘に核開発をしているという情報を世界にリークしたイスラエル人科学者、モルデハイ・バヌーヌがイタリアにてモサドに拉致され、イスラエルの刑務所に18年間も服役していたという事実に対して、どう思いますか?」と聞いてみた。
ベリル・コローは顔色を変えて、しばらく考えてから「その質問には答えたくない」と言った。
しかしその後も、コローは核兵器の恐怖を熱心に訴え続け、「ビキニでの核実験が起こった際、ニューヨークでは反核運動は起こらなかったのですか」という問いに対し、とても嬉しそうに、「ニューヨークでもデモがあ りました。これは素晴らしい事です。核の脅威を世界にアピールしたのです」と答えた。
そこで私はもう一度彼女に聞いてみた。「広島に原爆を投下したエノラ・ゲイがワシントンに今も展示されているが、それに対してあ なたは何か意見がありますか?もしもビキニでの核実験に対する反核運動を、核の脅威を世界にアピールしたという視点であ なたが評価するのであれば、エノラ・ゲイの展示に対してもなんらかの反応があると思うのですが」
やはり彼女は答えなかった。黙ったままだ。
沈黙するのはたやすい。
デュシャンを批判したヨーゼフ・ボイスになぞらえて、私はこう言いたい。

「沈黙する大御所アーティストは過大評価されている!」
*オリジナルの文章に、個人の名誉を傷つけるような表記があったとの指摘を受けた為、該当箇所を早急に削除しました。
ご迷惑をおかけしました全ての方に、この場を借りて謝罪します。申し訳ございませんでした。
Prix Marcel Duchamp 2000:
Seven Questions for Thomas Hirschhorn
http://www.toutfait.com/issues/volume2/issue_4/interviews/hirschhorn/hirschhorn.html
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